ろぐりずむ

主には宝塚の感想。他のミュージカルも観ます。

【宙組】『Shakespeare』(2016) 感想 その2 〜「才能」に惚れ、そして疎ましく思った2人

2016年大劇場お正月公演、宙組Shakespeare』の感想 その2です。今回は、お芝居の中で気になった沙央くらまさんと松風輝さんについてです。 

その1はこちら↓


http://www.flickr.com/photos/95572727@N00/5390752214

photo by Stuck in Customs

キーパーソン、リチャード
このお芝居の中で、キーパーソンなのは沙央くらまさん演じるリチャードだ。リチャードは一座の俳優であり、そしてシェイクスピアの才能に惚れている人物である。

〜劇中劇
まず一座の俳優としては、劇中劇での『ロミオとジュリエット』が印象的だった。以前の感想にも書いたように、劇中劇では一本調子に話しており、普段のお芝居と違いを付けている。

そこで、コマさん(沙央くらまさん)のチャーミングさが出ていたように思う。コマさんの魅力はチャーミングさにあると私は思っていて、月組の『1789』でも革命家であって、女遊びもしていて…という役どころだった。
重いお芝居の中でもくすっと笑える魅力を持っていて、さすが専科である。

〜才能に惚れる
そして、シェイクスピアに惚れている、という点。私はこの作品の中で、リチャードの
「お前の才能に惚れているんだよ…!!」
という台詞が好きだ。

この言葉に至るまでに、リチャードには一座の危機、シェイクスピアへの才能の妬み、そして夫婦関係への羨ましさとか、様々な思いがあったのだろうと思う。
でも、リチャードはシェイクスピアの作品が好きで、演じることが好き。そこに表れる素直さ、そしてコマさんのチャーミングさが合わさって、大好きな人物となった。

ジェントルマンに拘る父親
シェイクスピアの父親を演じた松風輝さん。
革手袋職人で、「ジェントルマン」に憧れて、酒に溺れている父親の役だった。 

まず、演じているまっぷーさん(松風輝さん)はまだ中堅どころ。普段こういった父親役は上級生がやるものだと思っていたのでびっくり。これは組の事情によるものだと思うけれど…。

そしてシェイクスピアの父親は、きっと文字が読めない。だから、革手袋職人として「ジェントルマン」という称号を欲した。ジェントルマンにはその一家の紋章みたいなものがあって、見ただけでどの家か分かるようになっている。

そして、シェイクスピアが戯曲を書くことに対しての怒り。跡を継いで欲しいという思い以外に、文字が読めないから戯曲が分からないのかな、と思う。自分ができないことを息子ができる、という悔しさ、悲しみ。

続いて、お金を借りに、そして次にある事実を伝えにロンドンまでやってくる。「ロンドンまでやって来る」、手紙が書けないからこういう手段を取るんだな、と感じた。

最後はハッピーエンドになるので、結果良かったことになるのだけど、そこに至るまでの負の感情を表現するのがすごくお上手だった。
また、台詞に物悲しさが感じられて、シェイクスピアの父親、というだけでなくて1人の人間としてキャラクターを確立されていた。

あとがき
最後にもう1つ好きな台詞を残しておこう。これはシェイクスピアが父親に向かって言うセリフである。
「芝居の中だったら、何にでもなれるんだ」

この台詞を聞いた時、私はこの言葉の持つ意味こそが、舞台に惹かれている理由だと思った。舞台の中なら、国を超えて、時代を超えて、人を超えて、何にでもなれる。
この作品は、シェイクスピアの人生だけでなく、「舞台」を舞台にすることによってその魅力を引き出す素晴らしい作品だった。